for harp solo(2009/11)
duration: ca.8min.
first performance: 7 December 2010, at Yamaha hall(Tokyo), by Reine Takano
extrait(mes.1-)
高野麗音さんのリサイタルのために作曲。アンサンブル作品などと違って、あるひとつの楽器のために曲を書くときにはその楽器の特性が音楽の書法に大きな影響を及ぼします。この曲の場合は、ハープ特有の「身振り」から着想された幾つかの素材によって楽曲全体が構成されており、それらの素材が組み合わされ、展開されることで音楽が進行してゆきます。またハープの持つ多彩な音色もこの曲を支える重要な要素であり、たとえば同じ一本の弦からも、弾く位置の違いや弦の一部を押さえたり爪ではじいたりといった奏法の指定によって、さまざまな音色の変化が引き出されます。豊かな残響の上にそれらの音色を組み合わせることで、幾重もの響きの階調を作り出そうとする試みも、この楽曲の大きな関心のひとつです。
「円柱」というタイトルはオーストリアの詩人、ライナー・マリア・リルケの「噴水 La fontaine」という詩の一節から採られています。
~おお、お前自身の性(さが)そのものによって壊れる
かろやかな円柱よ、聖なる円柱よ。
絶え間のない運動の中に束の間の聖堂を浮かび上がらせるリルケの「円柱 colonne」は、ハープの軽やかな響きになぞらえられた水の彫像の暗喩であると同時に、音楽によって時間上に立ち現れる虚構の建築を暗示します。積み重ねられた響きによって形作られた「耳のなかの神殿」(リルケ)が、音楽の展開によって刻々と姿を変えてゆく-この曲に託されたイメージです。なお、このcolonneという語はフランス語でハープの支柱を指す言葉でもあります。
(高野麗音ハープ・リサイタル、プログラムノート)